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銀座の鐘

「主は良き羊飼い」

説教集

更新日:2021年01月02日

2020年12月27日(日)降誕後第1主日 主日家庭礼拝 伝道師 藤田 健太

ルカによる福音書2章8~21節

 ルカによる福音書によれば、主イエス・キリストは、父親ヨセフが皇帝アウグストゥス の勅令に従って住民登録をするために赴いたベツレヘムでお生まれになります。言うなれ ば、主イエス・キリストは「旅先」でお生まれになったのです。主イエスが旅先でお生ま れになった報告のすぐ後に本日の羊飼いたちの物語が続きます。この話の流れは決して偶 然ではないと思います。羊飼いたちは、その仕事の性質上「旅」と深く結びついた人々と 言えるからです。現在の遊牧民と呼ばれる人たちの活動領域は推定 10~80 キロに及ぶそう です。聖書の時代の羊飼いの活動領域もそこから類推することが可能であると思います。彼らの生活はまさに「旅」そのものです。

 そんな生活の中、羊飼いたち自身も彼ら自身を導く「良き羊飼い」(ヨハネによる福音書 10 章 10 節)を必要としました。羊飼いたちは知恵と経験と勘を頼りに羊の群れを導きます。 しかしそんな彼らも一匹の迷える羊に過ぎません。彼らもまた、自分たちの困難な旅路に 常に寄り添う最良の導き手を必要とするのです。ルカによる福音書 2 章 8 節以下に語られ るクリスマス物語は、そんな彼らが自分自身の「良き羊飼い」に巡り合う物語です。言う なれば、神様との出会いの物語です。私たちはこの物語を私たち自身の物語としてお聞き することができると思います。16 節「そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉 桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。」―主を必死に探し求める羊飼いたちの姿には、 神を求める「飢え」「渇き」が感じられます。私たちは皆、自分たちを治め、導いてくれ る「良き羊飼い」を求めています。神を求める私たちに対して、聖書はクリスマスの主イ エス・キリストを指し示します。羊飼いたちと共に飼い葉桶に憩う御子イエス・キリスト を見出す時、私たちは、私たち自身の旅の最良の導き手、慰め主を知るようになると言え ます。クリスマスの主と出会う時、私たち自身も「この幼子について天使が話してくれた ことを人々に知らせ」(17 節)、「神をあがめ、賛美しながら帰って行く」(20 節)ことにな ります。クリスマスの礼拝が、私たちに「伝道」と「讃美」をもたらすのです。

 物語の背景として語られる「皇帝アウグストゥスの勅令」は天使が告げ知らせた「福音」と対照的な関係にあります。「住民登録」の大きな目的は「課税」と「兵役」にあると思 われます。皇帝による人民の支配をあまねく行き渡らせるために講じられた措置であるこ とは疑いありません。「皇帝による支配」に対して、天使たちが提示するのは「神による 支配」です。地上の王による支配の背後にまことの神様による支配があることを天使は告 げます。皇帝による住民登録の措置は身重のマリアに困難な長旅を強いることになりました。しかし、神様はその旅の中から、御子イエス・キリストの誕生を成し遂げてください ました。私たちがどこに赴こうと、旅先には、まことの神が共におられます。ヨセフとマリア、羊飼いたちは小さな馬小屋に共に集い、自分たちの旅を導いてくださったまことの 神様を礼拝しました。私たちも彼らと共にまことの神様を見上げたいと思います。
 
 降誕後第 1 主日の本礼拝をもって、私たちは新しい年に向かってゆきます。コロナウイルスによる未曽有の体験を経た私たちが一体どこに赴くことになるのか正確な見通しを語 ることは誰にもできません。しかし私たちの赴く先には主が共におられることを今年のク リスマスの礼拝では特にそのことを心に深く刻みたいと思います。小アジアにあるプリエ ネの都市で見つかった碑文のカレンダーは、当時のローマ帝国属州民たちが皇帝アウグス トゥスの誕生記念礼拝を新年の初めに献げたことを伝えます。しかし私たちの新年礼拝は、 まことの神様である主イエス・キリストに献げられます。「福音」という言葉が皇帝の「誕 生」や「即位」を告げる狭義の意味しか持たなかったその時代、クリスマスの天使は「福 音」という言葉の意味を豊かに押し広げてくれました。神様の御子の誕生を祝うことから 私たちの新しい歩みを始めましょう。

祈り
天の父なる神様、降誕後第 1 主日の主日礼拝の恵みに感謝いたします。私たちにまこと の良き羊飼いを与えてくださったクリスマスの恵みに感謝いたします。どうぞ来る年も「羊 飼い」である神様と共に恐れることなく歩みを進めることができますように。私たちの教 会の歩みをお守りください。主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。